2014/11/23

■日曜コラム■「前向きに検討します」は本当に検討する?<通訳を使うテクニック -12->

通訳を使う際の話し手側の注意点として今回取り上げるポイントは「前向きに検討します」、「善処します」、「社に帰って協議します」といった表現です。

「前向きに検討します」や「善処します」という表現を「直訳」するとすれば「肯定」の意味です。「前向き・・・」であるから「否定」の意味ではないはずです。同様に「善処」ですからこちらも当然「肯定」の意味と考えるでしょう。(「善き処へ計らう」という意味です)

しかし、日本語では「前向きに検討します」や「善処します」と表現するときのニュアンスは、むしろ否定的な見解を述べるときや結論を先延ばししたいときに使うことがあるのではないでしょうか。結論を導き出すまでに時間を稼ぎたいときに使うことも多いはずです。

ここで「可能性の数値化」という表現方法を紹介します。たとえば、「肯定」と「否定」をパーセンテージで表現してみます。「できる」「実行する」を100とし、「できない」「実行しない」が0とします。「前向きに検討します」や「善処します」という表現は果たして何%ぐらい実行してくれるでしょうか?

少なくとも100%の確率で「できる」「実行する」ではないはずです。恐らく、実行度は30%または20%、人によっては限りなく0%に近いときにこういう言い方をする人もいるでしょう。つまり、実行度や実現度は限りなく低いことになります。この点を通訳がどう解釈して話し手の意向を相手に伝えることができるか、微妙なところです。

もちろん、この数値は極めて曖昧で個人によっても異なります。(基準の感覚差)10%と受け取る聞き手もいれば、80%と受け取る聞き手もいるでしょう。聞き手のコンディションによってだいぶ異なります。つまり、「善処します」と言うだけでは話し手がどのくらいの確率で実行する意思があるのか、言葉だけでは伝わらないのです。

相手にこちらの意思を伝えるとき、私は数字によって実行度を示すという方法を心がけています。(これは中国人とコミュニケーションを図るときのコツです)

◇可能性を数字で表現する
たとえば、現地法人の担当者に「来月、こちらで会議があるがぜひ出席してほしい」という依頼を受けたとします。そのとき、「行けないわけではないけど、絶対行けるとは言い切れない状況なので、できるだけ前向きに考えます」と答えたとします。

現地法人の担当者から見ると私が果たして「来れる」のか「来れない」のかわからないでしょう。担当者がどう考えるか、担当者が解釈して判断することになります。「たぶん来れるだろう」とこちらの意向とは違った解釈になる可能性もあるかもしれません。

可能性の数値化で表現するとこうなります。「申し訳けない。行ける可能性は現状では40%、現在抱えている課題が処理できれば行ける可能性70%、調整の時間をください」という表現です。確率を数字で表現することでこちらの意図を伝え、コミュニケーションギャップを避ける方法です。

「今週中に納品できる確率は30%です。しかし、○○○の協力が取り付けられれば、今週中に納品できる確率は80%になります」というように、伝えたいニュアンスを通訳に判断させるのではなく、話し手が最初から数字を使って表現します。これが可能性の数値化です。

もちろん、「前向きに検討します」や「善処します」を使うときには意識的に「結論を出さない」というケースや「議論を先送りすることで時間を稼ぎたい」といったケースもあるでしょう。わざと曖昧な表現をするという方法もあります。相手とのビジネス折衝の上でそれがひとつの作戦であればそれはそれでいいかもしれません。

しかし、伝えたいことを正確に伝えるためには、話し手側も注意を払わなければ行けないこともあります。曖昧な表現は使わない、二重否定や多重否定の表現は使わない、相手に結論から告げる、可能性を数字で表現するなどの方法です。

◇「社に戻って協議します」
「前向きに検討」や「善処します」と同じ表現で「社に戻って協議します」があります。結論を先送りして、時間を稼ぐために使うこともあるでしょう。

しかし、この「社に帰って協議します」という表現は別の意味で注意したい表現です。「社に帰って協議が必要である」ということは「この件に関して私は決定権がない」と相手に宣言していることになります。基本的に中国人は「決定権」を持っていない担当者とは真剣な交渉をしません。通訳がどう訳するかを考える以前の問題です。

こういう言い方は結果的にあなたがあなた自身の「面子」を自分でつぶしていることになります。相手が交渉相手としてあなたを認めないどころか自分で自分の「面子」をつぶす恥ずかしい行為なのです。中国人の「面子」については今後このコラムでもシリーズで取り上げていきたいと思います。ぜひ、ご期待ください。


■日曜コラム■担当:ASIA-NET代表 吉村 章
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Bridging people, business and culture in Asia

◆Yahoo! JAPAN ビジネスニュースにてコラムを執筆中
http://bylines.news.yahoo.co.jp/yoshimuraakira/

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http://www.asia-net.biz/books.html

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