2015/12/02

人物紹介(3)東急リバブル台湾子会社社長、牧野氏 不動産「爆買い」の最前線で目指すもの

 不動産仲介大手の東急リバブルが2014年4月に立ち上げた台湾子会社、東急房地産。初代の董事長兼総経理として赴任した牧野高樹氏は「台湾ならきっとうまくいく」と心中で確信していた。「台湾の奇跡」として知られる1990年代までの経済成長に加え、2000年代以降もハイテク産業を中心に成長を持続。特定の製品に特化して世界市場を舞台に活躍するオーナー系の中小企業が多く、富裕な顧客層のすそ野も広い。さらに自信の背景には台湾人の日本に対する心情的な近さもあったという。

 東急リバブルの海外戦略は2011年4月に海外営業部を設置し、本格的に乗り出した。当時はアジアの不動産価格が高騰。東日本大震災後は日本の不動産の割安さに注目が集まり、アジアの投資家からの日本の不動産への投資ニーズが増えていった。牧野氏は中国・北京や香港、韓国でもセールスを手がけたが、反日感情という壁にも直面した。一族で資金を出し合って投資しているケースが多く、買い手本人がその気になっていても親族からの反対で成約に至らないケースも出た。投資は利益を求める行為だが、同時に投資対象の価値を信じて資金を投じる行為でもあり、心情的な側面も無視できないという。

 親日的な台湾ではこうした問題はない。また、経済成長に加えて中国からの直接投資規制が緩和された影響で、台北市を中心に不動産相場が急騰。坪単価1000万円のマンションも珍しくない。割安で心情的にも近しい日本の不動産が投資ターゲットになるのは自然なことだった。

 進出に当たっては現地企業と合弁会社を設立した。資本金は8割を東急リバブルが出資、2割を現地で総合雑貨店の「HUNDS TAILUNG」(台隆手創館)を運営し、東急グループと関係の深い台隆工業が出資した。不動産仲介ビジネスで重要なのは「売却物件の情報と、買い手となる顧客の人脈」(牧野氏)だ。売却物件は日本側の営業部門が探してくるが、顧客人脈は自ら開拓する必要がある。合弁を選択したことは現地の人脈を広げるうえで大きな役割を果たしたという。今年8月までの約1年半で仲介した取引の総額は170億円を超え、同社の海外拠点では圧倒的な稼ぎ頭となった。

 不動産売買は投機的なイメージが付きまとう。アジアの富裕層の「爆買い」がクローズアップされている現在は、なおさらかもしれない。ただ、もし不動産マーケットに資金が集まらず資産の売買が停滞すれば、都市を開発して魅力を高めたり、良質なインフラを整備・維持しようとする動機の重要な部分が失われる。少子化で内需の縮小に直面することが確実な日本市場。海外資金なかりせば、都市の荒廃は将来現実になりうる。

 牧野氏の当面の目標は台湾で資産の購入からアフターケア、売却まで一貫して手がけられる体制を構築することだ。そのためにも「人材育成を強化して現地採用の人材が長く安心して働ける環境を整え、組織を拡大していきたい」という。日本の不動産を積極的に買ってきた台湾人投資家だが、最近では「割高な物件を買わされたり、税金対応などのアフターケアが不十分でトラブルになるケースも増えてきているようだ」と明かす。日本と台湾の間で健全な投資環境を整えることは、不動産の価値を支える流動性を支える上で重要な意味を持つ。

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