2016/01/08

人物紹介(4)製品の物語がブランド力になる 台湾味の素の加野副社長

「ダシに対するこだわりがこんなに強いのか」。国内食品最大手、味の素は「ほんだし」などの製品を通じて日本の食文化を長年担ってきた。その台湾法人で副社長に当たる副総経理を務める加野俊哉氏は、現地の食文化の懐の深さを日々実感している。「日本の正しい食文化を伝えたい」との思いを胸に、日台の食のコラボレーションの最前線に立つ。

積極的なアジア展開でも知られる同社でも台湾事業の歴史の古さは際立っている。東京帝国大学の池田菊苗教授が昆布のうま味成分がアミノ酸の一種であるグルタミン酸ナトリウムであることを発見したのが1908年。味の素は翌年に創業し、1910年には台湾での輸入・販売を開始した。現在は「ほんだし」、日本のクノールスープに当たる「VONO」など一般家庭用の他、業務用を合わせて約100種類の商品を扱っている。

「安いものはいくらでもあり、価格で競っても勝負にならない。日本企業として製品の背景、ストーリーを打ち出して価格に見合う価値を認めてもらう」のが基本戦略だ。ほんだし(こんぶだし)は台湾で知名度が高い北海道産の真昆布を使用していることを前面に打ち出す。世界無形文化遺産にも認定された和食文化を紹介するシンポジウムを開催し、シェフを招いて日本のダシの使い方を実演してもらうなどの活動も積極的に展開している。

直近では外食関連事業の伸びが著しい。レストランから街中の小さな食堂まで、日本の高品質のダシなどを使ってもらえるよう地道な営業活動を展開している。台湾は共働きが一般的なため外食の比率が高い。家計支出のうち三分の一が外食に費やされるという調査もあるほどだ。勢い店舗間の競争も激しい。「よりよい食材を使ってみようとする研究熱心な料理人が多い」といい、ストーリー性を打ち出した同社製品は料理の質を高めようとする現地の料理人の支持を広げている。また、国内市場の飽和で海外に成長の活路を求める日本の外食チェーンの進出も相次いでおり、コンサルティングや食材調達を担う機会も増えているという。

台湾では2012年ごろから食の安全が社会問題化している。廃油原料の食用油が流通したり、加工食品で違法な食品添加物の使用が発覚するなどの問題が相次いだためだ。2015年末には学校給食で遺伝子組み換え食品の使用を禁止する法案が立法院を通過。2016年の1月の総統選挙戦でも輸入豚肉の安全性が大きな争点となるほど国民の注目度は高い。加野氏は「安全性や高品質という日本製品への期待に応えることは当然」と強調する。

加野氏が台湾に赴任して5年弱になるが、最も力を入れてきたのは取り扱い製品の拡大という。「単なる食品メーカーから総合ソリューションカンパニーへの脱皮を目指す」。その戦略の象徴が健康・機能性食品関連の強化だ。たとえばアミノ酸の効能を引き出すことで筋肉の修復や疲労回復を早める「アミノバイタル」は日本では既にアスリートやスポーツ愛好家の間で浸透している製品だが、2014年から台湾でも販売を開始。プロスポーツや体育大学を通じて普及拡大を進めている。また、アミノ酸によってアルコールの分解を促進する効果がある「ノ・ミカタ」といったユニークな商品も今年の12月から発売した。台湾市場を深く分析しながら、日本が誇る食文化を正しく伝え、高度な技術で健康や生活の向上に貢献する――。「台湾での仕事のやりがいは大きいです」と目を輝かせる。

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